ここ数年、「リスキリング」や「新しいスキルを身につけよう」という言葉を耳にする機会が一気に増えました。AIやDXの進展により、働き方にも大きな変化が起き、これまでの知識や技術だけでは対応しきれないのは確かです。
しかし、多くのメリットがある学びなおしですが、生成AIが大きな進化を果たした2025年を振り返ってみると、その意味も少しずつ変わり始めているように感じます。では今、本当に必要なリスキリングとは何なのか──そのヒントを探っていきたいと思います。
AI時代のリスキリングはスキルを増やすだけでは意味がない
近ごろリスキリングの重要性が強く叫ばれるようになり、社会人向けのスクールの数も爆発的に増えてきました。しかし、2025年の今、その言葉をそのまま受け取るのは危険です。なぜなら、スキルを身につけること自体を目的にしている限り、ほとんど意味を持たなくなってしまったからです。
これまでは数年かけて学んだ技術が5年〜10年ほど使えましたが、AIの登場により「学んだそばから陳腐化が始まる」世界に突入しました。動画編集、デザイン、ライティング、プログラミング──かつて専門家しかできなかった作業が、AIのサポートで誰でも一定のレベルに到達できるようになっています。
つまり、同じスキルを持つ人が一気に増え、価値が下がるスピードも加速したということです。努力してスキルを手に入れても、数か月後にはAIが同等以上の成果を出す可能性がある。これでは「スキルを持っている」という状態そのものに、以前ほどの競争力はありません。
さらに問題なのは、人がどれだけ頑張っても、AIの成長スピードに追いつけないことです。人は毎日数時間しか学べませんが、AIは24時間進化し続けます。努力が無駄になるわけではありませんが、「スキル=強み」という図式はもう通用しない。これはフリーランスに限らず、誰にとっても無視できない現実です。
では、学ぶことに意味がないのか? もちろんそんなことはありません。意味がなくなったのは、“スキルを増やすことをゴールにしてしまう学び”です。スキルは“目的”ではなく、あくまで“素材”。かつては素材の入手が困難だったため、素材を持っていることに高い価値がありましたが、その価値が目減りしてきた今、価値があるのは「何をつくるか」です。
つまり、これからは「どんなスキルを持つか」ではなく、「そのスキルで何を実現するのか」を考える力が必要になるでしょう。
“スキルの足し算”より大事なメタスキル
では、スキルそのものの価値が下がってきた今、どんな“学び直し”が意味を持つのでしょうか。その一つが、スキルを活かすためのスキルではないでしょうか。たとえば動画編集ができても、「どんな場面で使えばいいのか」「どんな問題を解決できるのか」がわかっていないと、せっかくの技術もうまく働きません。逆に、技術がそこまで高くなくても、どこで使えば効果が出るのかを判断できる人は、大きな成果を生み出せます。
これは文章でも、デザインでも、AIの活用でも同じです。技術そのものより、「何を目的に、その技術を使うのか」を考えられるかどうかで、アウトプットの質が変わってきます。言ってみれば、スキルは“道具”で、その道具をどのタイミングでどう使うのかを決める力が“メタスキル”です。今は、このメタスキルの方が意味を持つ場面が増えてきました。
メタスキルがあると、新しいスキルを学ぶときにも余計な遠回りをしなくてすみます。「なんとなく必要そうだから学ぶ」のではなく、「こういう場面で使いたいから学ぶ」と考えられるので、学びが自然と実践につながるでしょう。AIが進化していく時代ほど、ただ技術を増やすのではなく、技術をどう扱うかを考えることが大きな差になっていきます。
そして、この“扱い方を考える力”は、誰にでも育てられるものです。特別な才能が必要というわけではなく、日々の中で「これって何のためにやるんだろう」「もっと良い方法はないかな」と小さく問いを立ててみるだけで、少しずつ鍛えられていきます。スキルを足し算するだけの学びではなく、そのスキルをどう活かすかを考える学びが、これからのリスキリングの中心になっていくのかもしれません。
AI時代のリスキリングは“自分の考えを育てること”から始まる
メタスキルが大事だと言っても、その判断はどこから生まれるのでしょうか。ここで役に立つのが、「哲学」です。哲学と言っても、むずかしい専門書を読む必要はありませんし、立派な答えを出す必要もありません。ただ、先人の知恵を借りれば、思考の補助線にはなるでしょう。また、哲学といっても、必ずしも壮大で崇高なことも考える必要もありません。
たとえば、「自分はどんな働き方がしっくりくるんだろう」「どんな仕事なら集中できるんだろう」など、ほんの小さな問いで十分です。こうした問いに向き合うことで、自分が大切にしたいものや、どんな価値を生み出したいのかが少しずつ見えてきます。これはメタスキルの“元になる部分”で、どんなスキルを選び、どう使うかを決める判断のヒントにもなります。
また、こうした問いは一人きりで抱え込む必要はありません。誰かと話す中で、自分では気づかなかった興味や視点が出てくることがあります。相手から返ってきた言葉が、自分の考えを整理するきっかけになることもあるでしょう。哲学が「対話」を大事にするのは、きっとこういう変化が生まれるからなのだと思います。
AIがどれだけ発展しても、「自分が何に惹かれるのか」「どう生きたいのか」といった部分は、人にしか分かりません。そして、こうした“自分にとっての答え”があると、学んだスキルを使う方向が自然と定まり、迷いが減っていきます。結局のところ、リスキリングの中心にあるのは、スキルの量ではなく、自分自身の考えを育てることなのかもしれません。
だからこそ、あまり身構えず、小さな問いを持ってみるところから始めてみるのも良いのではないでしょうか。
自分について考えたい人は、テックビズに相談を
自分がどんな価値をつくりたいのかを考えるのは、大事な一歩ですが、ときにひとりで整理しきれないこともあります。そんなときは、外の視点を借りてみるのも良い方法です。たとえばテックビズでは、フリーランスのキャリア相談にも力を入れていて、「自分は何が得意なのか」「これからどんな働き方を目指したいのか」といった話を一緒に整理できます。迷いがある人は、気軽に話してみるところから始めてもいいのかもしれません。
ITフリーランスのキャリア相談・案件探しはTECHBIZ
AIで遊ぶ子どもたちと、AIを学ぶ大人たち
「AIを使えないと置いていかれるぞ」「今すぐAIスキルを身につけよう」。
そんな危機感あふれる声を、最近はあちこちで耳にします。大人たちは真剣です。必死です。セミナーに出て、スクールに入り、推しのYouTuberで勉強し……。まるで“AIを身につけないと明日から生活できません”くらいの勢いで学んでいます。
しかし、ふと立ち止まってみると、「大騒ぎしているのって大人だけじゃない?」と思う時があります。小学生はAIでゲームを作り、絵を描き、文章をつくり、学習に使い……と、もはや「呼吸をするようにAIを使って」います。しかも彼らは、AIを“スキル”だなんて思っていません。 完全に、おもちゃ扱いです。
大人に必要なのは“リスキリング”なんて立派な言葉より、子どものように遊ぶ感覚なのではないでしょうか?「仕事を効率化するためにAIをどう使うか」ではなく、 「AIで何ができたら楽しそう?」 と考えてみるほうが、ずっと自然に、ずっと深くAIを使いこなせる気がします。
AIを“ツール”と捉える大人より、 AIを“おもちゃ”と捉える子どものほうが 圧倒的に早く使いこなすでしょう。だったら私たちも、少し肩の力を抜いてみてもいいのではないでしょうか。 遊ぶように学び、興味のままに触れてみる。そんなスタンスこそ、これからの時代を楽しむためのいちばんの“スキル”なのかもしれません。
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