「自分の市場価値がわからない」「自分はどのレベルのエンジニアなのだろう」。
そんな不安を抱えたまま働いている方は少なくありません。特に、社内評価と市場評価が一致しないIT業界では、報酬が妥当かどうかを判断する基準がないという声もよく聞かれます。
では、エンジニアの市場価値はどのように測ればよいのでしょうか。
今回は、TECHBIZでAI・ブロックチェーン領域を中心に企業とエンジニアを支援してきた、コンサルタントの菊地航輔さんに話を伺いました。多くのフリーランス・正社員エンジニアと接してきた菊地さんは、次のように語ります。
「市場価値は、自分ひとりでは正しく測れません」
その真意とは何なのか──。
本記事では、エンジニアが市場価値を誤りやすい理由から、実際に価値を伸ばす人の共通点、そして今日からできる具体的な行動まで、インタビュー形式で深掘りしていきます。
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菊地さんは、NECでシステム開発やPM領域の業務に携わり、大規模案件でのプロジェクト推進や技術的な土台を培ってきたエンジニアです。その後、より専門性の高い技術領域に挑戦したいという思いから独立し、フリーランスとしてAI・ブロックチェーン関連のエンジニア案件に関わってきました。
フリーランスとして活動する中で、「自分のキャリアをどう伸ばすか悩むエンジニアが多い」という課題意識が強まり、より広い視点で支援するために TECHBIZのコンサルタントへキャリアチェンジ。
現在は、エンジニアの市場価値可視化や強み整理、案件選定のサポートなど、“技術 × キャリア” の両面からエンジニアを支援する立場として活躍しています。
NECでの経験、先端技術の現場、そしてコンサルとしての視点。この3つのキャリアを持つ菊地さんに、エンジニアの市場価値を誤る理由と、価値を伸ばす人の特徴について話を聞きました。
エンジニアはなぜ“自分の市場価値”を誤りやすいのか？
ーーエンジニアの方から「自分の市場価値がわからない」「自分の報酬は妥当なのか判断できない」といった声をよく聞きます。菊地さんから見て、エンジニアが“市場価値を誤りやすい理由”とは何だと思いますか？
菊地さん：まず大前提として、市場価値というのは“自分ひとり”では正確に測れないものです。多くのエンジニアが日々の開発業務や、社内での評価だけを基準にしがちですが……それだけでは“市場全体での評価”までは見えないんです。
特に、SIerやSESのように比較的クローズドな環境にいると、自分のスキルや経験が外の企業でどれくらい必要とされているのかが掴みにくい。結果として「自分はもっと評価されるはずだ」「今の技術では通用しないのでは」といった過大評価と過小評価の両方が起きやすくなります。
また、情報格差も大きいですね。
地方で働いている方や、長く同じ現場にいる方ほど、最新の技術トレンドや需要の変化に触れる機会が限られます。すると、エンジニア自身が“どのスキルに価値があるのか”を把握しづらくなってしまうんです。
ーーなるほど、環境によって“見える世界”が大きく変わるということですね。エンジニア自身が気づきにくいポイントがあると。
菊地さん：そうですね。結局、市場価値というのは “自分の感覚”と“市場の評価軸”を照らし合わせて初めて見えるものなんです。ただ、自分ひとりで市場のリアルを把握するのは難しい。だからこそ、外の世界を知っている人や、複数の企業と関わる立場の人と話すことが、価値を正しく知るうえで大切だと感じています。
市場価値を伸ばすエンジニアには、どんな共通点があるのか？
ーー市場価値を正しく把握することが難しい一方で、“価値を伸ばしていくエンジニア”もいますよね。菊地さんが実際に多くのエンジニアと接する中で、「この人は市場価値が上がっていく」と感じる方には、何か共通点はあるのでしょうか？
菊地さん：ありますね。特に強く感じるのは、現場での「信用」を大切にしている人は市場価値が上がりやすいということです。
市場価値というと「スキル」や「技術力」の話になりがちですが、実は “信頼される動き方ができるかどうか” が価値に直結すると思っています。
例えば、主体的に動ける、報連相が丁寧、課題を放置しない──こういった基本的な行動を積み重ねられる人は、どの企業でも評価されます。
技術力はもちろん重要なのですが、企業が求めるのは「任せられるかどうか」なんですよね。
ここが満たされている人は、自然と市場価値が上がっていきます。
ーーなるほど。市場価値＝スキルの強さ、と思いがちですが、“信用”や“姿勢”の部分が評価に影響するのは意外でした。ほかに市場価値が伸びていく方に共通する特徴はありますか？
菊地さん：もうひとつは、学び続ける習慣がある人ですね。特にIT業界は技術の移り変わりが速いので、5年前に強かった経験がそのまま現在の市場で通用するとは限りません。
伸ばしていく人は、
- 得意分野を深掘りする
- 必要に応じて新しい技術やクラウド関連の知識を学ぶ
- 自分のスキルが“今の市場でどう求められているか”を理解しようとする
といった姿勢があります。
これはベテランの方でも同じで、経験が長い人ほど“技術のアップデート”が止まりやすいんですが、そこを意識して継続できるかどうかが大きな差になります。
ーー菊地さんはエンジニアとしての経験も長く、さらに現在はコンサルタントとして多くの方のキャリアを見ている立場ですが、その両方の視点から見て「伸びていくエンジニア」の共通点がかなり具体的にあるのですね。
菊地さん：はい。最後に挙げるとすれば、“顧客視点”で動けるかどうかです。
多くのエンジニアは自分の技術を軸に考えがちですが、市場価値を伸ばしていく人は「このプロダクトは誰のどんな課題を解決しているのか」という視点を持っています。
技術は手段であって、企業が求めているのは“課題を解決できる人”。
その視点を持てる人は、役割の幅が広がり、市場価値も自然と高くなっていくのだと思います。
市場価値を上げるために、今日からできることは？
ーー市場価値を誤りやすい理由と、価値を伸ばす人の特徴について伺いました。では実際に「自分の市場価値を上げたい」と思っているエンジニアが、今日からできることは何かありますか？
菊地さん：あります。まずは、自分のスキルや経験を一度“棚卸し”することですね。
意外と、自分が何をやってきて、どんな技術領域を得意としているのかを、言語化できないエンジニアは多いんです。
たとえば、
「開発経験が3年あります」
というだけでは情報が足りなくて、企業は市場価値を判断できません。
- どんな役割で開発に関わったのか
- どの技術スタックをどの程度扱えるのか
- 案件の中でどんな成果を出したのか
こうした情報を整理し、“自分が提供できる価値” を客観的に見える化することが、最初の一歩になります。
ーーなるほど。たしかに、スキルや経験を持っているはずなのに、うまく整理できていない方は多い印象があります。「棚卸し」はすぐに実行できそうですね。他にできることはありますか？
菊地さん：次は、市場の需要や相場感に触れることですね。
市場価値は“市場”が決めるものなので、自分の技術が今どれくらい必要とされているのかを知る必要があります。
例えば、AIやクラウド、セキュリティ領域は今も継続的に需要が伸びていますし、逆に需要が下がっている技術もあります。
こうしたトレンドを知らずにいると、努力の方向性がズレてしまうんです。
SNSや勉強会、技術イベント、転職市場のデータなどを活用し、自分のスキルが“どの位置”にあるのかを把握することはとても大切ですね。
ーーたしかに、市場の流れを知らずにいると、自分の価値がどこにあるのかも把握しにくいですよね。最後にもう一つだけ、エンジニアの方が市場価値を上げる上で意識した方が良いことはありますか？
菊地さん：最後は、“第三者の評価軸”を持つことです。
これは本当に大切で、自分ひとりでは絶対に気づけない視点があるんですよ。
僕自身、NEC時代にもフリーランス時代にも感じていたのですが、自分の経験や技術はどうしても“主観”で見てしまうんです。
だからこそ、企業のニーズや市場を知っている人と話すことで、「どの部分が強みなのか」「どこを伸ばせば市場価値が上がるのか」
といった、客観的な評価が得られます。
エージェントやコンサルに相談するのはもちろんですし、現場の先輩や、別の企業で働くエンジニアと話すことでも、自分では気づかなかった価値が見えてくることがあります。
まとめ
・エンジニアの市場価値は、社内評価だけでは測れない。環境・情報量・技術トレンドの差によって、自己評価とのギャップが生まれやすい。
・市場価値が伸びていく人は、信用を積み、学びを続け、顧客視点で動いている。スキルだけでなく「任せられる姿勢」や「課題への理解」が評価につながる。
・市場価値を上げるには、棚卸し・市場理解・第三者の視点が不可欠。自分の強みを言語化し、市場の需要を知り、外部の評価軸を取り入れることで道が開ける。
コラム｜人は自分の市場価値を正しく測れない ―「比較基準」と「認知バイアス」の罠
菊地さんが語った「自分ひとりでは市場価値を正しく測れない」という指摘は、心理学の分野でも広く知られている現象と一致します。
たとえば、スタンフォード大学やコーネル大学の研究では、
人は自分の能力を正確に評価することが難しく、特に経験が少ない領域ほど判断が歪みやすい と報告されています（いわゆる「ダニング＝クルーガー効果」）。
また、IPA（情報処理推進機構）が発行する「IT人材白書」では、
企業が求めるスキルと、個々のエンジニアが「自分には十分ある」と認識しているスキルの間に一定のギャップが存在する と指摘されています。
さらに、LinkedInの「Global Talent Trends」でも、従業員が感じているスキルレベルと、市場が実際に評価しているスキルの需要にはしばしばズレが生じる と報告されています。
これらの研究や統計は共通して、「自己評価」だけに依存すると市場価値を誤るリスクが高いという事実を示しています。
だからこそ菊地さんが語るように、第三者の視点や、最新の市場データを踏まえて「自分の現在地」を知ることが、キャリアの方向性を誤らないために重要なのです。
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