個人事業主として活動を続ける中で、「事業内容が変わった」「新しいブランド名にしたい」といった理由から、屋号を変更したいと考える方も多いでしょう。
屋号の変更は法律上の義務ではありませんが、税務署への届出や銀行口座の名義変更など、正しい手順を踏む必要があります。
手続きを怠ると、確定申告や取引先とのやり取りで混乱を招くこともあります。
この記事では、
個人事業主が屋号を変更する際の手続き方法、必要書類、注意点をわかりやすく解説します。
開業届の書き直しや銀行口座の対応など、実務で迷いやすいポイントを整理しました。
ポイント
屋号を変更する際に必要な手続きと書類がわかる
税務署・銀行・請求書など、連動して行うべき変更対応が整理できる
屋号変更で失敗しないための注意点と実務のコツを理解できる
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屋号を変更する主な理由
屋号を変更したいと考える個人事業主は少なくありません。
多くの場合、「事業内容の変化」や「ブランドイメージの刷新」など、ビジネスの節目に合わせて見直すケースが多いです。
主な理由を整理すると、次の4つが挙げられます。
1. 事業内容・業種が変わったため
開業当初に想定していたサービス内容から大きく変化した場合、屋号を新しい事業に合わせることで、取引先や顧客に誤解を与えずにすみます。
たとえば、もともと「ライティング」を中心に活動していた人が「Webマーケティング」や「コンサルティング」業務に拡大した場合、
旧屋号のままだと事業内容とのズレが生じることがあります。
屋号は“事業の看板”。サービス内容が変われば、それを的確に伝える屋号への変更がブランディング上も有効です。
2. ブランディングを刷新したい
SNSやWebサイト、名刺などで使う屋号は、顧客との最初の接点になります。
そのため、屋号を変えることで「印象を新しくしたい」「より覚えやすい名前にしたい」という理由で変更する人も多くいます。
たとえば、「山田デザイン事務所」から「Studio YAMADA」に変えることで、
よりクリエイティブで現代的な印象を与えられるようになります。
また、複数のサービスを展開している人にとっては、屋号を統一することでSNSやドメインのブランド一貫性を強化できるのも大きな利点です。
3. 法人化を見据えて整えたい
将来的に法人化を予定している個人事業主の場合、法人登記をスムーズに進めるために、先に屋号を法人名に近い形に変更しておくケースがあります。
たとえば、「佐藤デザイン」から「Sato Creative」に変更しておくと、法人化時に「株式会社Sato Creative」としてそのまま登録でき、ブランディングの連続性を保てます。
このように、屋号変更は法人化準備の第一歩としても機能します。
4. 顧客・取引先への印象を改善したい
開業初期に“とりあえず”で決めた屋号が、時間の経過とともに違和感を覚えることもあります。
たとえば、個人名ベースの屋号から、より事業性のある名前に変更することで、信頼感やプロフェッショナリズムを高められます。
「山田太郎ライティング」→「TARO WRITING OFFICE」
といった変更で、より洗練された印象に。
取引先との契約書や請求書にも屋号を使う場合、
“名前の印象=信頼度”に直結するため、屋号変更はビジネス改善の一手として有効です。

屋号変更の手続き方法
個人事業主が屋号を変更する場合、基本的には税務署への届出を行うだけで手続きが完了します。
ただし、開業届を「修正」する形での申請となるため、書類の書き方や提出方法を正しく理解しておくことが大切です。
1. 「個人事業の開業・廃業等届出書」で屋号を変更する
屋号を変更する際は、新しく開業届を提出する必要はありません。
税務署で使用する「個人事業の開業・廃業等届出書」を利用し、
屋号欄に新しい屋号を記入して提出します。
- 屋号変更の理由:「屋号変更のため」と記入
- 提出先:現在の事業所を管轄する税務署
- 提出時期:変更が決まり次第(期限の定めはなし)
- 提出方法:窓口持参、郵送、またはe-Tax(電子申請)
なお、以前の屋号で出した開業届を“廃止”する必要はありません。
「同じ事業者が名称を変更した」という扱いで処理されます。
2. 開業freeeやe-Taxでの手続きも可能
屋号変更は、会計ソフトやe-Taxを通じてもオンラインで対応できます。
特に「開業freee」や「マネーフォワード開業届作成」などのツールを使えば、
フォームに入力するだけで必要書類を自動作成できます。
電子申請で提出した場合も、税務署側の受理をもって変更完了となります。
控えをPDFで保存しておくと、後の銀行手続きなどに使えるので便利です。
3. 屋号変更に必要な書類一覧
書類名 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
個人事業の開業・廃業等届出書 | 新しい屋号を記載して提出 | 税務署窓口またはe-Tax |
本人確認書類 | マイナンバーカード・運転免許証など | 郵送時に同封 |
屋号記載の名刺や請求書(任意) | 銀行などで名義変更時に求められることあり | 任意添付 |
4. 提出後に確認すべきポイント
- 税務署からの控え(受付印つき)は必ず保管する
- 銀行やクレジットカード会社の名義変更時に提示できるようにしておく
- 確定申告や帳簿上の屋号も、すべて新しい名称に統一する
連動して必要な変更手続き
税務署への届出が完了したら、次に行うのが関連手続きの変更です。
屋号はビジネス上さまざまな書類や口座に関わるため、放置するとトラブルや整合性のズレを招くおそれがあります。
この章では、屋号変更後に見直すべき代表的な項目を整理します。
1. 銀行口座の名義変更
屋号付きの銀行口座を利用している場合は、新しい屋号に合わせて名義を変更します。
- 必要書類
- 税務署で受理された「開業届(控え)」
- 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカードなど)
- 新しい屋号が記載された名刺や請求書(求められることあり)
銀行によっては「再審査」扱いになることもあり、場合によっては新規口座開設となるケースもあります。手続きの前に、各銀行の公式サイトで条件を確認しておきましょう。
2. 請求書・領収書・名刺などのビジネス書類
屋号は顧客との契約・取引書類にも多く登場します。
請求書、見積書、領収書、契約書、名刺など、すべての書類で新しい屋号に統一しておくことが大切です。
特に、インボイス制度に対応している方は、登録情報の名称欄も変更が必要になるため注意しましょう。
3. 会計ソフト・クラウドサービス
freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトでは、
「事業者情報」や「帳簿名」に屋号が設定されています。
これを旧屋号のまま放置すると、確定申告書や請求書出力に誤表記が残ることがあります。
屋号変更後は、
- 会計ソフトの設定画面
- 請求書発行ツール(例:Misocaなど)
- 電子帳簿・クラウドストレージのフォルダ名
を順番に見直しておくのが安心です。
4. SNS・Webサイト・ドメインの変更
SNSやホームページで屋号をブランディングしている場合は、アカウント名やプロフィールの更新も忘れずに行いましょう。
屋号を変更したタイミングで、「旧屋号 → 新屋号」への移行を1〜2か月ほど併記しておくと、
既存のフォロワーや顧客が混乱しにくくなります。
また、ドメインを新しく取得する場合は、旧URLから新URLへのリダイレクト設定をしてSEO評価を引き継ぐのが理想です。
屋号変更の注意点
屋号の変更自体は難しくありませんが、届出後の管理や取引関係の調整を怠ると、思わぬトラブルにつながることがあります。
ここでは、屋号変更時に注意しておくべき4つのポイントを解説します。

1. 銀行やクレジットカード会社の審査が必要になる場合がある
屋号を変更すると、銀行口座やクレジットカードの「事業者名義」も更新する必要があります。
金融機関によっては再審査が必要になり、一時的に利用制限がかかるケースもあります。
特に、屋号付き口座を仕事の入出金に利用している場合は、変更手続きを行うタイミングを慎重に選びましょう。入金予定が少ない時期に行うのが安全です。
2. 取引先・顧客への事前連絡を忘れない
屋号を変更すると、請求書や契約書に記載される名称も変わります。
取引先に無断で屋号を変えると、「別の事業者に変わったのでは?」と誤解されるおそれがあります。
メールや書面で名称変更の通知書を送付し、旧屋号・新屋号・変更日を明記しておくと信頼を損ないません。
特に長期契約中の取引先には早めに伝えることが重要です。
3. 商標・ドメインの重複チェックを忘れずに
新しい屋号を考える際は、既に他者が使用していないか確認しておきましょう。
- Google検索やSNSで同名アカウントの有無を確認
- J-PlatPat(特許情報プラットフォーム)で商標登録を検索
- .com / .jp などのドメインが取得可能か確認
特に同業者が似た名称を使っている場合、ブランディング上の混乱や商標トラブルに発展する可能性があります。
4. インボイス制度の登録情報も更新が必要
2023年以降、インボイス制度の導入により、事業者名(屋号)が登録情報に含まれています。
屋号を変更した場合、税務署への「適格請求書発行事業者の変更届出書」も提出する必要があります。
これを怠ると、インボイス番号との不一致で請求書が無効扱いになるリスクがあります。
まとめ|屋号変更は“再スタート”のチャンス
個人事業主にとって屋号は、事業の信頼性やブランディングを象徴する“顔”のような存在です。
そのため、変更には手間がかかるものの、事業を新しいステージへ進めるきっかけにもなります。
税務署への届出はもちろん、銀行口座・請求書・会計ソフト・インボイス情報など、
すべての情報を新屋号に統一することで、ビジネスの信頼性が高まります。
また、屋号を見直すことで、自分の強みや方向性を改めて整理する良い機会にもなります。
事業内容やブランドを更新するタイミングで、「どんな印象を与えたいか」「どんな顧客に届けたいか」を再確認しましょう。
TECHBIZでは、開業後の実務だけでなく、信頼性とブランディングを意識した屋号活用のアドバイスも行っています。
自分らしい働き方を屋号でかたちにしたい方は、ぜひご相談ください。



