「AI人材はいらない」という声が上がるのはなぜ?

「AI人材はいらない」という言葉は、実際にはAI技術そのものを否定しているわけではありません。多くの場合、背景にあるのは次のような採用・受け入れ体制の失敗です。
- 高い報酬で専門人材を採用したが、業務プロセスが改善したように見えず、現場の負担が変わっていない
もしくはAI導入により付随業務が発生し、これまでの作業量と大きく変わらない・慣れない業務が新たに発生した
- AI技術の進化が速く、採用時に必要と思われたスキルや経験が、数年後には陳腐化する可能性もある
そのため経営層はAI人材の受け入れに慎重になりがち
- ノーコードツールなどの普及により、AIに精通していない人でもAI活用ができるになったため、あえて年収相場の高い専門家を雇用する理由がないと考える人もいる
こうした声の背景を見ていくと、問題は「AI人材が必要か、不要か」ということではなく、企業側がAI人材に何を求めるのかを明確にできていないことにあると考えられます。
「AIを活用して業務を効率化したい・生産性を高めたい」と考えていても、具体的にどの業務をどう変えたいのか、そのためにどのようなスキルを持つ人材が必要なのかまで整理できている企業は多くありません。
目的や役割が曖昧なままAI人材を採用すると、現場との間で「何を任せればよいのかわからない」「期待していた成果が出ていない」といった認識のズレが生まれやすくなります。また、何をもってAI人材を評価するのか、といった課題も出てきます。
つまり、AI人材について考える際には、「必要か不要か」という二択ではなく、採用・受け入れ・評価・育成の実務レベルでどう向き合うかを考えることが重要です。
実際に「AI人材を採用したものの、社内に根付かない」と相談を受ける企業の多くは、採用そのものの失敗というより、受け入れ側の準備不足に課題がありました。
優秀なAI人材を採ること以上に、まずは「その人材が力を発揮できる土台があるか」を見直す必要があります。
「AI人材はいらない」を翻すために押さえるべき3つのポイントとチェックリスト

経営層・現場・人事の間で認識がずれたまま採用やAI活用を進めると、「期待していた成果が出ない」「現場で活用されない」といった状況につながり、結果として「AI人材はいらない」という判断にもなりかねません。
ここでは、AI人材を採用・活用する企業が特に押さえておきたい3つのポイントを、実務の観点から解説します。
① 採用前に「AI人材に何を任せるのか」を具体化する
「AIに詳しい人」という漠然としたイメージのまま採用を始めると、企業が期待する役割と候補者の専門性が噛み合わず、入社後のミスマッチにつながります。
まず必要なのは、「AI人材を採用すること」ではなく、AIによってどの課題を解決したいのかを明確にすることです。
そのうえで、モデル開発を担う人材が必要なのか、既存のAIツールを現場に実装・定着させる人材が必要なのか、などを判断します。
✅ チェックポイント
- AIを活用して解決したい課題が明確になっている
- モデル開発などの「開発型」か、業務でAIを使いこなす「活用推進型」かを区別している
- 任せたい業務や期待する成果を具体的な単位まで整理している
- 経営層・現場責任者・人事で、求める役割やスキルをすり合わせている
🖊️ 筆者の経験
採用活動を始める前に「AIで何を実現したいのか」「そのためにどの役割を任せるのか」まで関係者ですり合わせた企業ほど、採用後の立ち上がりがスムーズな傾向があります。
一方で、「AIに詳しそうな人をとりあえず採用する」と人材ありきで進めると、入社後に任せる業務が定まらず、専門性を十分に活かせないケースもあります。
② AI人材の成果に合わせて評価基準を設計する
業務時間の削減、属人化の解消、意思決定の迅速化、社内へのAI活用の定着など、従来の評価制度では捉えにくい成果もあります。
そのため、AI人材を配置する際には、「何を成果として評価するのか」まであらかじめ設計しておくことが重要です。
✅ チェックポイント
- 業務時間の削減や生産性向上など、AI活用に適した成果指標を設定している
- 短期的な成果だけでなく、業務プロセスや組織への中長期的な変化も評価してい
- 評価者であるマネージャーが、AI人材に期待する役割と成果を理解している
🖊️ 筆者の経験
問い合わせ対応にAIチャットボットを導入し、一次対応の工数を削減した事例では、業務効率は改善していても、売上などの従来指標だけではその成果を十分に評価できませんでした。
そこで、四半期ごとの成果だけでなく、半年〜1年単位で業務プロセスがどのように変化したかを見る評価軸を設けることで、AI活用による貢献を適切に評価できるようになりました。
③ 全員がAIを使い続けられる環境をつくる
AI人材の育成というと、AI研修やリスキリング施策に目が向きがちですが、知識をインプットするだけでは実務への定着にはつながりません。
重要なのは、研修そのものよりも、学んだAIスキルを日常業務で繰り返し使える状態をつくることです。
既存業務にAIを追加するだけではなく、AI活用を前提として業務フローそのものを見直し、実際の仕事の中で試行錯誤できる機会を設ける必要があります。
✅ チェックポイント
- 部門ごとに「AI活用を前提とした業務フロー」を設計している
- 育成対象者が、学んだスキルを実務で使える業務やプロジェクトに配置されている
- AI活用の成功例・失敗例を共有し、組織全体でノウハウを蓄積できる仕組みがある
🖊️ 筆者の経験
AI研修を実施しても、研修後に従来と同じ業務へ戻り、AIを使う機会そのものがなければ、身につけた知識やスキルは定着しません。実際に、研修直後は積極的にAIを活用していたものの、数ヶ月後にはほとんど使われなくなったケースも見てきました。
育成を「学ぶ機会」で終わらせず、「実務で使い続けられる仕組み」まで設計することが、AI人材を組織に定着させるうえで重要です。
まとめ|AI人材の要否を判断する前に、人事がすべきこと
「AI人材はいらない」という声の多くは、AI技術そのものへの否定ではなく、採用・評価・育成のいずれかに存在するズレから生まれています。
AI人材の要否は、企業の規模や戦略によって答えが異なります。大切なのは、「採用するかどうか」の前に、自社の業務プロセスのどこにAI活用の余地があるかを丁寧に棚卸しすることです。
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