TECHBIZ MEDIA

エース社員の突然退職|連鎖離職を止める人事判断とは?

#学び

【記事概要】

本連載「実践から学ぶ、人事のヒント」では、第一線で活躍する人事のリアルな経験と実践知をもとに、採用・育成・定着の現場で直面する課題とその解決のヒントをお届けします。

急に退職を申し出られた経験はありますか?さらなる問題はその後。一人のエース社員が去った数ヶ月後、別の優秀社員も辞め、若手も転職に向けて動き始める…。

こうした「連鎖退職」は偶然ではなく、組織設計上の課題が原因である一方で、多くの企業は「引き留め対策」に走りがちです。

本記事では、なぜ連鎖が起きるのかを組織メカニズムとして理解し、その対策を実務視点から整理します。

組織設計、人材育成などにお悩みならHRBIZ

無料相談はこちら

なぜエース社員が突然退職するのか?

エース社員に仕事が集中する

「優秀だから」という理由で、エース社員に下記のような負担が偏っていないでしょうか。

  • 高い評価を得た社員に、さらに難度の高い業務が任せられる
  • 成果を出すたびに期待が高まり、業務がどんどん増える
  • 本人は責任感から「自分でこなさなければならない」「迷惑をかけられない」と考え、疲弊を隠す
  • 上司や人事は「本人から相談がないから大丈夫だろう」と誤解

本音を伝えられない職場風土

興味深いことに、この疲弊はデータに表れません。パルスサーベイも勤怠記録も異変を示さない。なぜなら、本人たちが本音を伝えないからです。


責任感の強い人ほど「困っている」を言い出せず、沈黙のまま転職活動を進めます。


気づくのは、退職願が出された瞬間。つまり、データの「異変」と実際の「疲弊」の間には数ヶ月のギャップがあるのです。

エース社員が辞めた後、なぜ離職が連鎖するのか?

エース社員が退職したあと、残された社員へ引き継ぎがうまくされないと、どうなるでしょうか。

  • 「エースにしかできなかった業務」が大量に残る(可視化されていなかった・属人化していた業務の発見)
  • 残された社員でその穴を埋めようとする
  • 残業が増える、判断が遅れる、エースと同等の成果が出せない、クライアントからのクレームが増える、など


残された社員は、「こんなに大変な状態だったのか」「一人の人がこんなに多くの仕事を背負っていたのか」と気づき始めます。


責任や負担の大きさから職場の空気が一変。「これが続くなら、自分たちも転職を考えよう」と思うようになるのです。


すでに転職を選択肢として持っている優秀な社員たちにとっては、この状態は十分な転職理由になります。別の企業での機会を探し始め、数ヶ月後、次々と退職を申し出るようになる。これが「連鎖退職」のメカニズムなのです。

人事の現場で実際に起こった失敗事例3つ

失敗事例① 「優秀=業務負担増」という構造

高評価の人ほど、さらに難度の高い業務を任された結果、「優秀=激務=疲弊→退職」という事象が固定化してしまいました。


優秀な人ほど消耗し、長く在籍するのは「ほどほどの評価」の人たち、という現場です。
確認すべきこと

過去3年で高評価だった社員のうち、何人が退職しましたか?


筆者の経験から

ある営業会社で「営業成績1位の人材が毎年1~2名辞めていく」という悪循環を目撃しました。


高い評価を得た営業社員には、さらに難度の高いクライアント対応や新規開拓が任されます。


成果を出すたびに期待が高まり、業務はどんどん増える。昇進の道は閉ざされたまま。気づいた時には、その人たちは別の企業の管理職になっていました。


「優秀さを評価するなら、その先のキャリアパスも用意する。」これが人事の責任です。

失敗事例② 対話を避ける職場風土

エース社員のモチベーション低下を見た上司が適切なコミュニケーションを取らず、「そっと様子を見守る」に徹してしまったケースです。


対話がない文化では本人も本音が言いにくく、沈黙のまま転職活動を進めていたようです。

解決の鍵

1on1では、進捗確認で終わらせず、「実際、今の状況をどう感じているか」を純粋に聞くようにしましょう。

筆者の経験から

人事責任者だった時代、ある優秀なプロジェクト管理者が突然、退職を申し出てきました。


当初は「待遇を改善したい」という理由だと思っていました。しかし、その後の面談で分かったのは「業務負荷の相談をしたかったが、相談する環境がなかった」ということ。


本人が辞めることを決める前に、「困っていることはないか」と問いかけていますか?その問いかけがない職場ほど、優秀な社員を失う傾向があります。

失敗事例③ 育成責任が曖昧

「若手を3年育成する」という方針を掲げたものの、現場の実情は「即戦力が必要」。


その結果、若手は「業務の穴埋め」として配置され、その育成をエース社員が背負わされる結果となりました。


通常の業務に加え、若手育成の責任までのしかかったエース社員は、疲弊し退職を選びました。
人事の落とし穴

育成プログラムを用意したつもりでも、実際には、

  • 育成に必要な時間を確保していない
  • 育成担当者の業務負荷調整をしていない
  • 評価時に育成成果を確認していない


筆者の経験から

コンサルティング企業で、新人育成を「先輩社員の自主性に任せる」という方針が続いていました。


先輩社員たちは自分の業務を進めながら新人指導を担う。新人がミスをすれば先輩がカバー。当然、先輩社員たちが次々と疲弊して辞めていきました。


後に分かったのは、育成に必要な時間の確保も、評価での成果確認もされていなかったこと。「育成は現場の暗黙知」と思考停止すると、実は優秀人材を消耗させる仕組みになっているのです。

まとめ|筆者後記

退職を防ぐのではなく、組織が何を見落としていたのかを問い直すことが大切です。


20年以上の人事キャリアから確実に言えることは、エース社員が辞める企業では「その人がいなくなると困る」という状態になっている、ということです。これは人事が、その人の成長機会、疲弊、キャリアパスに向き合っていない証なのです。


最も危険な勘違いは「優秀だから大丈夫」という判断です。優秀だからこそ無理をし、業務が集中し、本音が言えなくなる。その流れを理解し、意識的に遮断する。それが人事の真の責任です。


評価制度の見直し、1on1の質的転換、育成責任の明確化を進めることが、組織全体の安定性と成長を支えるのです。

HRBIZでは、評価制度の見直しや組織設計、人材育成などのご相談も承っております。お気軽にお問い合わせください。

組織設計、人材育成などにお悩みならHRBIZ

無料相談はこちら


SNSでシェアする

TECHBIZ MEDIA編集部 HRBIZチーム 徳原 麻紀

TECHBIZ MEDIA編集部 HRBIZチーム 徳原 麻紀

人事領域で25年以上の実務経験を持ち、累計1万人以上の採用・定着面談に携わる。中途採用・新卒採用・障がい者採用をはじめ、組織開発やDE&I推進など幅広い領域を経験。経営戦略と人事戦略をつなぐ実践知をもとに、人事担当者や経営者に役立つ情報を発信している。 <監修:徳原 麻紀>

ランキング

  • フリーランス適性診断
  • フリーランスの歩き方

最新記事

LATEST